山里での博物館運営
私が勤務している博物館は、鉄道も無く、バスの便数も極端に少ない山里に建てられています。職員は6名で構成されており、勤務の関係で通常は3名ないし4名で働いております。周囲を山で囲まれており、自然環境は抜群ですし、日常の疲れを癒すにはのんびりとした雰囲気で、博物館が置かれている環境のことを考えれば申し分のないところです。ただ、入館者数だけを気にする博物館であれば、田舎よりも都会に作ったほうが都合が良いことは衆知のとおりです。特に交通アクセスの悪い地域に立地していると、それだけで不利になってしまいます。これに自然環境が厳しく、例えば冬場に雪が多い地域などでは尚更です。雪の多い季節は、朝8時半に出勤してから約1時間以上は除雪作業に追われてしまいます。委託業者によって広い駐車場などは除雪してもらいますが、大きな除雪車が入れない長いアプローチや玄関、職員通用口というような場所は職員で除雪しなければなりません。西日本の博物館の中で小型除雪車を保有している施設も珍しいのではないかと思います。もしかして当館だけでしょうか。初夏になり、ツバメが飛ぶようになると、開けていた窓からツバメが侵入して、トレースしていた図面の上に糞を落とされたり、ムカデが出て来たりというように、もはや自然博物館の状況を呈しています。また、博物館の周囲に張られている芝生や樹木の手入れもかなり重労働です。草取りはときどきであれば心地よいものですが、約8500平方メートルもある敷地内の芝生を春から秋まで管理していくことは誠にしんどいことです。町立の小さな博物館ということもあり、毎日の掃除から敷地の草取り・トイレの掃除・館内案内・展示企画・文化財保護・発掘調査・国際交流・出版物の発行というように、およそ役場職員らしからぬ多岐多様に渡る仕事に忙殺されています。博物館は表向きは暇そうでいいように見られがちですが、実際には表から見えにくい仕事が大半だといっても過言ではありません。私自身は好きな仕事なのでどんなことにも苦にならず楽しくやっていますが、職員にとっては大変な職場だと痛感しています。愚痴ばかりいってもしょうがありませんので、具体的な成果を出しながら、より理解者が増えていくよう努力したいと思います。
最近、博物館を運営しながら思うのですが、文化の地方への分散は今後ますます積極的に図ってほしいと考えています。とはいえ、現実は都会から地方に向かって流れてきます。文化に限らず、すべての物事が都会を発して、地方を着とする、この思想に私たちは心から反省したいと思います。良いものは、良いのです。たとえ、どんなに悪くても、それが都会発なら良いものになってしまい、どんなに良いものでも地方発なら悪くなってしまうような、今の中央集権的な発想の中に真の文化の向上はないのではないかと思うこの頃です。ただ残念なことに、どんなに良いものができても、それが地方から全国へ逆流することは、今の世の中では至難の技なのかもしれません。80年代以降は地方の時代と、政治家の方たちは口を揃えて話しておりました。でも、彼らは話を繰り返すだけで、何一つしてくれるわけではありませんでした。真の地方の時代・地方の文化は、地方に住む私たちが努力して作り上げていくべきものだと思います。そう言う意味では、流れに逆らう・・・流れを逆流させることの難しさを、強く感じています。ただ、うれしいことに少しずつですが、そうした流れが微妙に変化してきているのを肌で感じてくるようになりました。
10年前に開館した山奥の博物館ですが、かなり無理をしながら開館までこぎつけたときと違って、最近では冷静に自分たちが置かれている環境についても考えることができるようになりました。今では、都会の博物館と比べてみてもそんなに遜色はないと自信をもっていますし、ちゃんと地方だってやればやれるのだと私たちは考えています。私たちだけでなく、この博物館は私どもの呼びかけに応じて集まってくれた国内外の関係者が作り上げた、本当に手作りの但馬生まれの博物館なのです。著名な学者や展示業者は一切参画しておりませんし、自分たちの頭で考えたものを形として作り上げたというのが現状です。これだけでは当然満足いくものではありませんでしたので、体験コーナーを設置した施設を増築する予定にしています。8月半ばには開館から数えて9年10ヶ月で30万人目の来館者を迎えたところです。
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